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東京地方裁判所 昭和47年(むのイ)463号 決定

被疑者 福田秀雄

決  定

(氏名略)

右の者に対する集会集団行進および集団示威運動に関する条例違反被疑事件について、昭和四七年六月一二日東京地方裁判所裁判官がした勾留の裁判に対し、同月一五日弁護人から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨は、別紙(一)の第一のとおりであり、申立の理由の要旨は、同第二のとおりである。

二、そこで、一件記録および資料を検討すると、別紙(二)記載のとおり、本件準抗告の申立は理由がないと認められるので、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項に則り主文のとおり決定する。

別紙(一)

第一、申立の趣旨

原裁判を取り消す。

第二、申立の理由

一、原裁判の被疑事実は、被疑者はほか数名と共謀のうえ、昭和四七年四月二一日午後七時三一分頃から同五三分頃までの間、東京都千代田区永田町から同都港区赤坂葵町に至る道路上において、東京都公安委員会の附した許可条件に違反した集団示威運動を指導した、というものであるところ、右集団示威運動の目的と手段及び罪質にてらして相当な行為であるから、可罰的違法性を欠き条例違反の罪は成立しないというべきである。

二、被疑者の逮捕の真の目的は、かねがね被疑者の行動を探査していた警察当局が本年六月九日に来日したキツシンジヤー米国大統領特別補佐官に対し、被疑者ら学生、労働者が抗議の意思表示をするのを妨げるため、前記行為後五〇日も経過した六月九日に至つてなしたものであつて、その逮捕は不当といわざるを得ず、この不当は延いて原裁判にも及ぶものである。

三、被疑者の本件行為の態様と当時における警察官の採証活動の状況とに鑑みて罪証を隠滅するようなおそれもその余地もなく、また被疑者の身分、全学連組織における立場、逮捕時の態度等から見て逃亡のおそれもないし、仮に然らずとするも微罪であるから勾留の必要性も存しない。

別紙(二)

一、一件記録に徴すれば、被疑者が勾留状の被疑事実欄に記載されたとおりの行為に出た事実を認めることができ、被疑者の右行為は一応、昭和二五年東京都条例第四四号第三条第一項、第五条に該当することが明白である。もつともその行為が一応構成要件に該当する場合であつても、なお、その目的、手段、罪質にてらし、いわゆる可罰的違法性を欠くか否かの問題を残す余地がないわけではないが、すくなくとも勾留に関する手続は、当事者が対等の立場に立つて攻撃、防禦を尽くし、裁判所が公平な立場において両者の主張、立証を検討したうえ判断を下す争訟手続とは本質的にその性格を異にし、捜査官が自己の判断に基づき必要と認めてすすめる強制捜査に対して行き過ぎのないよう司法的抑制を加えるためのものにすぎず、かつ限られた時間内に処理することが要請されるものである以上、可罰的違法性の存否の如く、もろもろの背景的事情をも加味したうえで複雑、微妙な法的評価を加える必要のあるような事項まで立入ることは制度の趣旨にてらし、求められていないと解すべきである。従つて勾留に関する手続においては、一応構成要件に該当する事実が認められれば、それをもつて刑訴法六〇条にいう罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるものとして処理すべきものである。よつて申立理由の一については爾余の点について判断するまでもなく失当といわなければならない。

二、また、一件記録を検討しても、被疑者の逮捕の真の目的が申立理由二、記載のとおりであることを窺わしめる形跡はなく、さらに事件から五〇日を経過した後、逮捕したからといつて、この一事をもつて逮捕を不当と断ずることはできないから申立理由二、も失当である。

三、なお一件記録によれば、前示のとおり被疑事実を認めるに足る資料は存在するが、本件はその行動の性格にてらし集団の統一された意思に基づく組織的な行動の一環をなすものであり、かつ本件の如く他の者と共謀のうえ、なされた事案については、ひとり被疑者の行為が資料によつて認められただけで足りるものではなく、被疑者の集団における役割、他の共犯者の氏名並びにその犯情、被疑者との関係等をも詳らかにしなければ、事案の真相を把握し延いて刑責の有無及び範囲を明確にすることはできない。然るに現在においては、これらの点は未だ明らかでなく、しかも被疑者に対する取調の現況に徴すれば、これらの点に関して罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものといわざるを得ないし、またその罪質が勾留の必要を認めない程度に軽微であると断ずることもできない。

従つて本件は、すくなくとも刑訴法六〇条一項二号の要件を充足しているので、その余の点について、判断するまでもなく原裁判官のなした被疑者に対する勾留の裁判は相当である。

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